第一課


紳士とチャックのお話


昨日道を歩いていたら向かいから歩いてくる二人組みの紳士のうち一人が接近してきてなんだなんだと思ったら小声で一言。
「チャック開いてますよ」
颯爽と去っていく紳士の後姿。
その背中に向かって先生は丁重にお礼を言いました。
先生はチャック全開で歩いていることに全く気付いていなかったのだから、かの紳士は、あえて指摘せず影で嘲笑しても良かったのだし、「こいつチャック開いてるぜ」と笑うこともできたし、無関心で放っておくこともできたはずです。しかるに気を使って小声で指摘し、颯爽と過ぎ去っていくさわやかな善意。さりげない心遣い。こんな人気のない正月の道端にも一廉の漢がおったのか。
余計なことは言わない、言い訳もしない、あるのは親切と気遣いとさわやかな羞恥と感謝のみ、web上では滅多にお目にかかれないさわやかな漢の交流がそこにはありました。
先生もチャック全開男を首尾よく見つけ出したあかつきには、さりげなく隠密裏に教えてあげよう、そう強く誓いました。